中学生のことば

昨年の夏より始めた習い事の教室で中学生の女の子と知りあい、次第に仲良くなっている。去年は中一で、ことし中2になった彼女は、習い事の内容も学校での勉強も優秀で、自分の中での不機嫌な日というのがほとんどないように見える。ちゃんと自分の感情をコントロールしているのだろう。いまだに自分の不機嫌に左右されて仏頂面のまま"話しかけるなオーラ"を出したりしている私としては、偉いなぁ、大人だなぁと思うことの多い友人のひとりだ。
その彼女が、最近、学校で無視されているらしい。クラスの女の子が誰も口をきいてくれなくなったそうだ。だけど、彼女は平気なのと言う。小学校のときもそんなことがあったし、休み時間、私はずっと本を読んでるから平気なのと。そのぶん習い事で会うたびに、彼女は先生や私たちに向かって速射砲のようにしゃべりまくっている。今日あったこと、昨日あったこと、お父さんが言ったこと、テレビでみたこと・・・本当は同級生の女の子とああだこうだ言いあって笑ったり怒ったり傷つけあったり謝りあったりしているほうがいいだろうとは思う。ココにいるのは全員年上で、しかもかなり年上の大人ばかりだから彼女が何を言おうがみんなにこにこと聞いたり聞き流したりしている。あまりにうるさいときでもやんわりと無視する程度で、誰も子供相手に本気でムキになったりしないし、叱ったり注意したりもしない。同じ年ごろの女の子の中で揉まれなければわからないことってたくさんあるとは思うけど、しばらくの間はココが彼女にとっての避難所で、休息の場なのだろう。しばらくの間だったら、いいじゃないかとも思う。それに彼女も心得たもので、いきすぎたと感じたときには、そっとひいたりもするのだ。真っ直ぐな子供らしさと同時に、大人の気配を読むのにものすごく長けた一面もある。おそらく幼いころにご両親が離婚し、母親不在の祖父母と父親の中で育ってきたという環境もどこかで関係しているのだろう。わがままを言いすぎない。駄々をこねない。努力を怠らない。我慢する。甘えすぎない。たくさん傷ついてきたぶん、他人を傷つけないように気をつけているのがよくわかる。よくできた子なのだ。
それでもおせっかいな私は、たまに叱ったり注意したりする。口うるさく言うと、"おばあちゃんみたいっ"と彼女はちょっと拗ねる。まだ子供なのだ。おしゃべりに夢中で他のみんなを待たせるばかりで、先生に注意されても知らん顔をしているのを見かねて"早くして!"と言うと、まるで理不尽な仕打ちをうけたような顔で、"はぁ〜い"と重い腰をあげる。みんなを待たせたあげく、"先生、もう始めてもいいよ"と言うので、"そういうときは、お待たせしてすみませんでした、でしょ"と言うと、"えーっ、ファミレスみたいぃ〜"と笑う。まったくの子供なのだ。おせっかいな私は彼女のことが気になるし、気を遣わなくても怒ってるときは口にする私に彼女も気が楽なのか徐々に懐いているようで、あるとき"ねぇねぇ、お姉ちゃん"と無意識のうちに私に話しかけ、真っ赤になって"間違えたぁ〜"と恥ずかしがっていた。初やつじゃ。
ことしのバレンタインデーには、もじもじとうらやましがっていたので、ちょっとかわいいデザインの帽子を編んでプレゼントした。彼女はお手製のチョコブラウニーを持ってきてくれた。2ヶ月後くらいに、彼女はもじもじと自分で縫っている小さな布の巾着袋を持ってきて、これにさくらんぽのワッペンをつけたいんだけどどうやってつけたらいい?と聞いてきた。たぶん私を手芸マスターか何かだと思っているのだろう。ワッペンの付け方なんて私もよく知らないが、こんなふうにすればいいんじゃない?などとアドバイスしたりした。
この間は私のマニキュアを見て、「自分でやったの? キレイだねー」と褒めてくれた。淡いピンクのグラデーションに粉雪のようなキラキラを爪先にのせ、控え目ラメをほんの少しオン。前の晩にいろいろ試しながら楽しんだ成果だ。「そぉ?」とまんざらでもない私。「ね、ほんとに器用だよね」と彼女。「そんなことないよ、不器用だよ」ちょっと照れる私。「帽子も編んでくれたし。あれかわいい!」ちゃんと覚えている彼女。「ううん、何か作ったり何かするのが好きなだけ。うまくないよ。ハミ出したりしてるし」ちゃんと自覚しているオトナな私。「きっと好きだと、いつか上手になるよ」。
確かに彼女はそう言ったのだ。
「きっと好きだと、いつか上手になるよ」
これから私は、器用になれたり、マニキュアや編み物や何か作ったりするのが上手くできるようになれるのかもしれない。もう何年も、これから先の私の可能性についての言葉なんて他人からほとんど聞いたことがなかったので、なんだかじーんときた。そっか、私もまだまだ可能性があるのか。一生懸命、勉強したり努力したりすれば、これから新たな境地が開ける可能性もあるのか!
「きっと好きだと、いつか上手になるよ」
うん、ありがとう。私、がんばる。