「パームビーチストーリー」 byプレストン・スタージェス

さらに引き続き、スタージェス監督の映画、
「パームビーチストーリー」を観る。

オープニング、"何か"があった気配をはらみつつ、
花嫁が慌ててタクシーを止め、教会では神父が
"腕時計"を気にし、男がタクシーに乗り込み、
窮屈な中でモーニングを着る。
そして結婚行進曲・・・パチリ!
額縁に収められた写真、"彼らは幸せに暮らしました"
の文字、そして・・・"Did they?"

大金持ちのウィニーキング(ソーセージ会社社長)や
"うずらの会"など、よくできた脇役を配しつつ、手際よく
物語られていくのは、冒頭の教会で結婚した夫婦(花嫁と
そっくりな女がクロゼットに閉じこめられていたな)の、
その後のおかしな大騒動・・・。

この監督の生みだすキャラクターはすごくチャーミングだと、
3本続けて観てほんとに思う。
たとえば「サリヴァンの旅」の苦労をしたがる映画監督の
サリヴァンは、"裕福な家庭に育ち裕福に暮らしているから、
キミの映画は明るいんだよ!"と言われ、その褒め言葉が彼には
たまらなく自分に不足を感じさせ、旅へと駆り立てられるのだが、
そこまで映画が始まって数分しか経っていないにも関わらず、
ああこの人の撮る映画はいかにも明るそうだなと、観客がわかる
ように作られている。観客は既に、このサリヴァンという男に
惹き付けられ、間もなく登場する執事のように彼を見守る
気になるような仕組みになっている。

「パームビーチストーリー」で、夫に離婚を提案する妻も、
なんともかわいらしく描かれる。
離婚をしたい理由が、いまここで別れたほうが、あなたは
もっと仕事に没頭できるから。
こりゃ眉唾だな、何か他の理由があるなと思う隙を与えるか
与えないかのタイミングで、これは表向きの理由じゃなく、
彼女は本気でそう願っているということが観客にもわかるように
なっている。
離婚をすれば、あなたは見栄を張らずに済む。
あなたはもっと仕事だけに没頭できる。
そしたら私があなたの妹になって、あなたの仕事を売り込んであげる。
もし私が金持ちの男と結婚したら、あなたの仕事に出資させる。

常識で考えれば理屈の合わないおかしな話なのに、このちょっと
ズレた女は本気でそう思っていて、本当に夫を愛している。
そんなことが作品の冒頭、1/10くらいまでに観客にわかるように
なっている。

この手際はすごいな〜。
登場人物に、他の誰かではないその人ならではの魅力を与え、
ちょっとズレた感じを愛らしく描き、いつの間にやら、たとえば
「パームビーチストーリー」なら妻のほうがズレていることを
忘れさせ、むしろ焼きもちをやいたり、呆気にとられて目を
白黒させている夫のほうを"気が利かないなぁ"くらいに
思わせるところまで観客をもっていく。
しかも、強引じゃなく。
何ひとつ、説明するでもなく。
こういうのを"映画マジック”っていうんじゃないのかなぁ。

話はひっくり返ったりなんだりしながら、テンポよく
進んでいく。
その中で、大富豪の息子の鼻眼鏡の男、というのが出てくる。
これがちょっと変わった感じの男で、「レディ・イヴ」の御曹司
のように、女にあまり慣れていなくて、だけど誠実で"いい人"では
あるらしい。
その彼が、知りあったばかりのこの女に服から宝石から靴から、
文字通り山ほど買ってあげるのだが、何かを買うたびに、小さな
手帖に品物の金額を書き込んでいく。
どんなに高いことを言われても、"ああそれもいいね!"と
言って買うことにし、小さな手帖に小さな文字でキチンと
"dress $420"と記入する。
パームビーチに向かう船上でも(もちろん彼の船だ)、
彼は細かい諸経費を嬉々として手帖に書き込んでいく。
そして言う。
"ただ書き込んでるだけさ。合計は出さない。クセみたいなものだね"
この大富豪の息子の、イヤじゃないけどちょっと変わってる感じという
のが、すごくわかりやすく表現されていると思う。

で、これは余談だが、映画を観ている途中で、あ!と気づいた。
船がパームビーチに着くあたりから、私はこの映画を観たことがある!!
たぶん、2,3年くらい前に、テレビで。
その時は途中から適当にみていたのでよくストーリーがつかめなかった
けど、なんだか小気味いいテンポの映画だなと思ったことは覚えている。
それがスタージェスの作品だったのかぁ。
出会いはもっと早くにあったのね。
ちゃんとクレジットを観て、ビデオかDVDを借りて
みてればよかったな。と思う。
でも、こうしていま再び会えたっていうのは、尚いい感じだな。
などとも思う。

渋谷のツタヤには、今回借りた3本しかなかったけど、
もっともっと観たい!!
どこかの名画座さん、スタージェス特集、やってくださいな!!