「ニセS高原から」byポツドール

劇団やら舞台やら、よく知りもしないくせに
臆面もなく書きます。
というのが、大前提でございます。
ひとつ、よろしゅう。

ここのところポツドールという劇団が気になって
いるのだが、新作の公演は10月とのことで、それ
ならと、4つの劇団の演出家が日替わりで演出する
という企画「ニセS高原から」(於駒場アゴラ劇場)の
ポツドール組公演を観に行く。
(ポツドール主宰・作・演出家の三浦大輔演出、30日)

もとの「S高原から」を知らないし、ポツドールの
公演も私はまだ観たことがない。
だけど、ああ好き系、と思った。のが、まずの感想。
役者はひとりを除いて、劇団外の人のようでしたが。

さて。
舞台は、S高原にある、とある療養所(のロビー)。
そこで病気療養中の患者と患者との間、彼らを見舞い
にくる恋人や友人たち、自分の見舞客と別の患者との
間に流れる空気、医者、看護士。
デリケートだったり杜撰だったり、無意識だったり
意識的だったり、優しかったり気遣ったり、
礼儀正しかったり欺瞞だらけだったり、しながら
派生し、霧散し、消えたり塗り込められたりしていく
ある感情が描かれていく。

"もとS"のセリフがどの程度変えられているのか私には
わからないけれど、以前、チェルフィッチュの「ポスト*
労苦のおわり」を観たときに感じた、役者のふつうな
しゃべらせ方、背中向きでもお構いなしの、一見、客に
見せることを放棄しているかのような話の進め方、
声のちいささ、などと共に、怪しげな"優しさのやりとり"
というのに、ああと思った。

ある人が、バブル経済がハジケて以降の、高度経済
成長という価値観を失った時代に幼少期を過ごした
自分たちには、ある種の虚無感があると言っていた。
精神的な病を抱える人や、年少者が被害者、加害者
となる悲惨な事件が増えているのは、新しい価値観を
見出せないままでいるからじゃないか、というような
ことを言っていた。
その"新しい価値観"を見出せるのは、30代、40代の人
ではなく、自分たち20代以下の若者なのだ、と。

それを聞いたとき、私は20代の若者ではないので、
彼の言う"ある種の虚無感"というのが具体的に
どんなものなのか、わからなかった。
虚無感を抱く時期というのはあったし、これからも
また別な虚無感にさいなまれる可能性だってある
のだろうけれど、彼の言う"ある世代に共通した
虚無感"というのは、私にはわからない。

ただ、ものすごく大ざっぱなくくりで言うと、
彼の属する世代に私が感じる自分の世代との
大きな隔たりは、"優しさ"のありようじゃない
かと思っている。

彼らは、とにかく優しい。
言葉が優しい。
話し方が優しい。
柔らかいのではなく、物腰が優しい。
優しくて礼儀正しくて、よく"ごめんごめん、
いま言ったのはそういう意味じゃなくて"
みたいなことを口にする。

彼らは、まず相手を頭から否定したりはしない。
やんわりと受け入れるところから始める。
オトナだなと思う。
彼らは、言いきったりはしない。
ひとつのことを相手に伝えるために、放物線を
描くように遠回りをしたり、同じ言葉や似たような
フレーズを何度も何度も繰り返したりする。
その間、ほぼ彼らは笑っている。
笑いながら喧嘩することだって、それが醒めた
関係とか諦めに近い関係以外でも、彼らにはできる
んじゃないかなと思う。
コトを荒立てたって、仕方のないことは多い。
だから彼らは譲り合うことを知っている。
彼らは許し合うことを知っている。
すごくオトナだなと思う。

それは素晴らしいことだと本気で思うけれど、
どうしても私はちらっと違和感を覚えてしまう。
たぶんそれは、彼らは優しいけれど、自分の知っている
優しさとはちょっと違うからなのだと思う。

そんなに何度も言わなくても(語彙は多くないようなので、
言葉を尽くしてとは言いがたい。彼らは何度も繰り返す、
笑いながら)、伝わるんじゃないのと思っちゃう。
へらへらしながら何度も言われたら、よけいに
どうなの?と思ったりもする。
優しさと優しさの応酬。
疲れるんじゃないかなーとも思う。
きっと彼らは内と外の区別がきっちりついているのでしょう。
だから外では、ずっと優しい。
オトナだ。
話はなかなか前に進まないけれど、時間はたっぷりある
からいい・・・の?
(イラチの私は、ある瞬間を過ぎたら、とっとと
先へ進みたがるだろう)

そんな(私の思う)いまの"優しさ"や"気遣い"や
"礼儀正しさ"が、同時多発会話や、小さな劇場
ならではのメリハリを効かせない芝居の中で、
みちっ、みちっと描かれていく。

人そのものじゃなく、テーマそのものじゃなく、
そこに派生する"空気"が妙にリアルに描かれていく。
ドキドキしちゃう。
喧嘩になるのかなと思うけど、喧嘩にはならない。
うっすら笑いあってる。
ドキドキする。
そんな感じが、好きだなと思った。

あと、この演出家の役者選びのセンスが素晴らしい!!
どこまでが芝居なのかわからないくらい、役にハマッた
風貌や口調や挙動の役者が、あっちにひょろっ、
こっちにひょろっと立っている。
あるいは、寝そべっている。
相手の目をあまり見ずに、相手が見ていないときにだけ
相手の表情を盗み見るようにうかがって、髪の毛にやたら
触っている。
この人ちょいイヤミだなとか、やり過ぎだなとか、
この人の声、ずっと聞いてると耳に障るよねとか、
そういう役者がひとりもいなかった。
素晴らしい。

ほんとなら、"生と死の対比"がどうのとか、そんな感想も
あるべきなのかもしれないけど、すんません!

そんないい加減さですが、三浦大輔、ポツドールの公演が
より楽しみになりました。10月です。
忘れないようにしなくっちゃ。

ちなみに、さっき、「ニセS高原から」の五反田団組の
チケットを予約した。
同じ作品が演出家や演じ手によってどれくらい
違ってくるのか、楽しみ楽しみ。
より三浦大輔すごい!になるのか、"もとS"が
すごいんじゃん!になるのか、はたまた五反田団行き
になるのか。

舞台で感情をぶまける系(役者&熱烈ファンのみ快感系)が
大の苦手な私には、今日は面白うございました!!