「紙屋悦子の青春」

久しぶりの岩波ホール。もしかして、「エレンディラ」以来くらいのご無沙汰ぶり。年齢層が高くて、映画の始まる直前まで、オバサマ方は小声と自分では思っている大声でお話に夢中。どころか、映画中のここぞという場面で、「ああ、おはぎ」とか先に大声でささやいちゃうのね。お家でテレビみてる感じなんだろうなー。こうしてみると、オジサマ方は、声に関しては静かなり。

というわけで、素晴らしい映画でした。ほんとに。久しぶりにこういうの見たな、という感じ。あまりにも戦中の市井の人の日常を市井の人の日常たらんと描こうとしすぎのきらいも無きにしもあらずだが、それにしてもやはりよいものはよい。娘時代の原田知代は、本当に40歳なんだろうか。ちゃんと娘に見えてくる。そしてまたいじらしい笑顔と素直さと朗らかさで、自分を好いてくれる男の嫁になることを心から感謝しながら決める。ああこんな娘さんがかつての日本には・・・!?

サディスティックな影の強かった(というのは個人的見解ですが)永瀬正敏が、これまた一本気で信頼できる男に映っている。特に逆行の中で、耳をぴんと突き立てて悦子を見るまなざしに、サディズムもヘビの狡猾さもいやらしさもない。ただ真っ直ぐにお国のことを思い、友を思い、悦子を思う。映画マジック。すばらしい。

久しぶりにみた小林薫も秀逸だな〜。間合いが、とぼけぶりが、頼りなさそうでそれでも一家の大黒柱然としているところとか、ごく自然な優しさや妹との時間の長さや嫁へのいたわりや、ごく当たり前の愛情がしっかりと、ある。家族、にみえる。そうそうお父さんってこんな。みたいな。

本上まなみをいままで女優として特にいいと思ったことはなかったけれど、これはいい役を得ていました。デカイ。そのでかさが九州女のおおらかさや肝っ玉や気の強さや姉や嫁に見え、それでいてしおらしかったり素直に謝るところがかわいらしくも映る。果たしてあの時代にこの人は本当に合っているのかという疑問は残りはするけれど、でもいい役どころを得ていたと思う。

やはり映画は、監督の意志がきれいに透け見えるもの。そこにすべてがある。