大阪から東京へ、9時間近くの旅

12月に静岡の磐田に神戸製鋼の試合を観に行ったときに、書いたかもしれないけれど青春18きっぷというのを初めて買って使ったのだが、その残りの切符がまだ4回分も残っていた。その中の1枚で奈良へ行き、もう1枚で京都と神戸へ行き、という大して金額のかからないコースだけれども切符を余らせるよりはという感じで使い、それでもまだ2枚(というか切符自体は1枚なんだけどね。2回分ってことで)残っている。
そこで、大きな計画を実行することにしたのでした。ま、鉄道好き、国内旅行好きの人にはまったくもってたいしたこのない旅でしょうが、私にとっては大冒険に近い感じの、大阪・東京間、在来線の旅!!
まず大阪から新快速で米原まで。米原から小さな電車で大垣へ。この間の窓から見える景色が最高だったな〜。もう、雪、雪、雪。降り積もる雪。美しくって、静かで、うず高くって、真っ白で、清潔で、ああ日本の山奥の雪景色、って感じで静かに興奮、うっとりため息。こーんなところで戦をしたのかい?とか、ここまでどやって来たのかい?とか、いま現在住んでいる人たちの暮らしぶりを勝手にいろいろ想像してみたりとかね。ガタンゴトン、誠実に走る小さな列車がまたよくて。窓からの眺め、飽きるってことがないのねー。
で、大垣で降りて、こんどは豊橋までの快速電車に。次第に風景はよくある感じに変わっていき、一宮を過ぎたあたりから眠気がさして、はっと気がついたら愛知県が終わろうとしてました。あはは、私ってそんなに名古屋が苦手なのか??
豊橋からは静岡までの普通列車浜名湖がデカイ。風景が広い。静岡の人、そりゃのんきに育つってもんだよな、などと勝手に思いは広がっていく。
静岡から熱海までも普通列車。割と混んでいる。隣のボックス席に座っていた人が私の座っているボックス席にうつり、そのうち何か書いてるなと思っていたら名刺を渡された。
僕は独身です。あたはもそうならメールをください。
ええっ!? びっくりして、いえいえ違います、と適当な嘘をついて寝たふりをすることにした。でも別に眠くもないし、窓の外は海が見えたりしてるし、夕焼けがきれいになってきてるし、ほら富士山が夕陽に染まっているよ、って感じで窓の外をうっとり眺める。ほんとにきれいなんだな、これが。ゆったりとした海に夕空、茜色というより薄紅色、天女の羽衣のたもとあたりに染め出される奥行きのある美しい色に照り映える富士山。こんなきれいな夕景が繰り広げられるなんて、なんだかありがたくって、うっとりうっとり。
はっと気がつくと、前に座っていた人の足が、ぴたっと私の足にくっついていた。ひえっ。そっぽ向いたまま位置をずらして、寝たふり寝たふり。早く静岡に着かないかな〜。って、そんなこと初めて思った、この日の長い時間の中で。
で、熱海に着いたとたんわき目もふらず電車を飛び降り、次の列車待つホームへ一目散。熱海からは一気に東京までだから、もしいまの人といっしょになったら苦痛でしょ。なので、15両でくるっていうから、なるべく階段から離れたあたりの列に並んで、そうだと思いついてお弁当を買いに行ったらまたもや例の人がいたんだけど気づかないふりしてたら、"お弁当ですか?"って言ってきたので顔だけで笑っておいた。で、その人が歩き去ったあとに、再び列に戻って乗車。ふう。
ほっとしてミカンを食べる。おやつも食べる。温かいコーヒーも飲む。ほうっ。そしたらなんと、通路をその人が通っていって、いっこ前の車両に座るのが見えた。ぎょえっ。でももういいや、知らん顔だよ。気持ちの中からも知らん顔だよ。せっかく愉しかった旅なんだから、気持ちよく終わろうよ。
と思って真っ暗になった窓の外を眺め、いろんなことに思いを馳せ、ああ私は流れゆく景色が好きなんだなぁと改めて思ったりした。9時間近く、ちっとも退屈しなかったもの。ちょっと意外。でも流れゆく景色が好きなんだもんね、そりゃ飽きないか。
自転車、自動車、電車、汽車、散歩。流れゆく景色を見るのが好き。見ながらいろんなことを思うのが好き。飛行機が苦手なのは、高いところが怖いというのもあるけれど、窓の外に景色がないからかもしれない。いやもちろん空は見えるし雲も見えるし、たぶん下をみれば海とか大陸とか見えてるんだろうけど、高いところが怖いから、それはできない。景色を見ることができない。だから退屈するんだろうな。シート狭いし、立ち上がってあんまり動き回るわけにもいかないし。
それから新幹線もあまり好きじゃないのは、視界がしょっちゅう防音壁で遮られてるからかもしれない。あと、私の体感速度の許容範囲みたいなことからいえば、ちょっと速すぎる。落ち着かない。窓がシールドされている。密閉感があってちょっと息苦しい感じ。走ってる音がなんだか機械音とうか電気系統の音みたいで心地よくはない。そんな感じ。
船の旅は、長いのは1回しかしたことないけど、気持ちよかった〜。延々、海が続いているわけだけど、これは飽きない。夜の海なんて真っ暗なんだけど、それでも飽きない。風が吹いてて、船べりを打つ波の音がして、海の匂いがして、それだけで充分。それはだって景色でしょ。だから飽きなかったな〜。朝方、小樽に着いたんだけど、海の色が変わっていく様もきれいだったな〜。髪の毛とか、潮風でべったりになってたな〜。
青春18きっぷ、18歳のころにはまったくもって考えられない移動手段だったけど、いまになってみると好きかも。ひとりでいることにあまり退屈しなくなってるし、ひとりでいる不安もだいぶ軽減されてるし、乗り換えもちゃんと調べれば大丈夫だってわかってきたし。緊張感より愉しさのほうが勝ってたもんね、今回。数年前ならきっと気を張りすぎて疲れ果てていただろうけど、この1、2年でぐっとラクでいるいかたを身に付けられたかも。あと、習い事を始めたことで、体力も少しはついたのかも。前は2,3時間の移動で体がむくんでいたけど、今回、そんなことなかったもの。体的には特にしんどさってなかった。
いや、いいものですね、ガタンゴトンの列車の旅って。知らない風景をたくさん見られる。知らない暮らしをたくさん想像できる。日本って広いって単純に実感できる。いいないいな、在来線の旅。